ASMR動画の快楽は、胎児が羊水で聞く音に近いから?音声学の権威に聞く、オノマトペの面白さ

2019/04/02

WRITERテキスト:トライアウト・黄田 駿/撮影:野田 真

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ASMR動画の快楽は、胎児が羊水で聞く音に近いから?音声学の権威に聞く、オノマトペの面白さ

日本のみならず、世界中で「耳がとろける」と話題のASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)動画。耳かきやウィスパーボイスなどで視覚や聴覚を刺激する動画がYouTubeを中心に流行しています。今回は、音声学・音韻論の権威である国立国語研究所の窪薗晴夫教授にASMRとオノマトペとの関連性を聞きました。聴覚への刺激によって心地良さやゾクゾクするような快感が引き起こされる現象の秘密とは一体何なのでしょうか。

リズムがあるから心地良く聴こえる

――取材前にYouTubeのASMR動画を見ていただきました。いかがでしたか?

いくつか聞かせていただいたんですが、ほとんどが摩擦音なんですね。摩擦音は音声学では、聞き辛い音として認識されています。いわゆるノイズですね。一般的には気持ちいい音ではないと言われているので、若い人たちに人気と聞いてびっくりしました。耳かきの音など、もう一度聞かせていただいてもいいですか?

――音声学的には不快な音なんですね。耳元で囁かれているようなくすぐったい感覚が人気なんだと思います。(動画を見ながら)いかがですか?

やっぱり、ス(SU)とかズ(ZU)とかの摩擦音ですね。でも一つ思ったのは、繰り返しの音だから心地良く感じるのかもしれませんね。

――繰り返しは気持ちいい音なんですか?

繰り返しとは、つまりリズムです。音楽も一定のリズムがあるから気持ち良く感じますよね。走る時だって左脚と右脚の繰り返しで、リズムが狂うと転んでしまいます。言葉もそれと同じように繰り返しがあるから、リズム良く発音がしやすくなるんです。そしてオノマトペはガサガサやザクザクなど、繰り返しの音が多いんです。

ASMR動画の快楽は、胎児が羊水で聞く音に近いから?音声学の権威に聞く、オノマトペの面白さ-画像-01

例えば、カサカサ(KASAKASA)というオノマトペは、KやSといった子音とア(A)の母音が組み合わせでできていますよね。この耳かきの音は、物理的にはズズズ(ZZZ)といった子音だけが鳴っているはずなんですが、人の脳が勝手に母音を補って、ス(SU)やズ(ZU)と聴いているんです。母音を補いながら繰り返しの音をつくっているんだと思います。

――なるほど。自然界にある音を人は聴きやすくするために母音を補っているんですね。

繰り返しは、聴きやすい音でもあると同時に発音しやすい音でもあるんです。ではなぜミッキーマウスが、ミッキーという名前なのか分かりますか?

――なぜでしょう……。

マウス(MOUSE)がMで始まるからなんです。これは頭韻と呼ばれていて、英語のキャラクターや著名人には良く使われています。ミニーマウスやドナルドダック、マリリン・モンローにチャーリー・チャップリンもそうですね。頭と頭の音が同じだからリズミカルに発音でき、またリズミカルに聴こえるんです。

――なるほど。色んな人たちが発音しやすく、親しみやすくなる仕掛けになってるんですね。

そうなんです。日本だと(『ドラえもんの』)野比のび太なんかがそうですね。リズムがあるから親しみやすさも生まれるんです。ワンワンとかもそうですね。

――だから赤ちゃんに言葉を覚えさせる時に、犬をワンワン、車のことをブーブーと言って覚えさせるんですね。

まさにそうです。こうやって赤ちゃん言葉を日本語と英語で比べてみると、大人の言語では分からないような共通性がわかるんです。この耳かきの音も一回きりじゃなく、オノマトペや赤ちゃん言葉と思じように、私たちの脳が母音を補って繰り返しの音をつくっている。だからこそ心地良く聴こえるんだと思います。数年前に流行ったピコ太郎のPPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)は実は良くできた音の組み合わせなんです。

母音と子音から受け取る万国共通のイメージ

――確かに耳馴染みのいいというか、発音していても楽しい言葉ですね。

そうなんです。「ペンパイナッポーアッポーペン(PENPAINAPPO- APPO-PEN)」のPEやPAは語頭に出てこれる強い音(拍)で、「ン」や「ッ」などは語頭には来ない弱い音(拍)なんです。PPAPは強い拍と弱い拍が絶妙なバランスで組み合わされているんです。

――そんな秘密があったんですね。

意図してかどうかは分かりませんが、そんな秘密が隠されていたんです。さらにPPAPにはPという唇の破裂音が繰り返し出てきますが、この唇の破裂音にも秘密があります。ママ(MAMA)やパパ(PAPA)など、MやPといった唇を使った破裂音は赤ちゃんが発音しやすい音なんです。これは万国共通。お母さんのことをママ、お父さんのことをパパと呼ぶのは世界中にあるんです。しかも、それはルーツが同じというわけでなく、自然発生的に色んな場所にあるんです。
ペンパイナッポーの話に戻ると、母音はア(A)が多いんです。このア(A)も赤ちゃんが発音しやすいんです。アイウエオ(AIUEO)は赤ちゃんが発音しやすい順番に並んでいるんです。笑い声でよく例えられるんですが、アハハはすごく純粋で、イヒヒやエヘヘはずる賢いようなイメージがありますよね。アは発音しやすい言葉でもあり、人間がいいイメージを持っている言葉でもあるんです。
PPAPは強弱のリズムがある上に、母音や子音が発音しやすいという特徴があるんです。だから発音しやすい。

――なるほど、ペンパイナッポーアッポーペンは、強弱の繰り返しだから耳を惹きつける音なんですね。母音一つひとつにも意味があるんですか?

そうなんです。例えば、お年寄りは「ヨタヨタ(YOTAYOTA)歩く」、赤ちゃんは「ヨチヨチ(YOTIYOTI)歩く」と言いますよね。ア(A)とイ(I)の違いですが、ア(A)は大きくて、イ(I)は小さいような印象がありませんか? 母音で受ける印象が変わってくるんです。

――分かりやすい! 言われてみるとたった違いはそんなにないのに、しっかりとイメージが伝わってきます。

面白いですよね。このギザギザした絵と丸々した絵を観て、どちらか「モマ」と「キピ」と名付けなきゃいけないとしたら、どちらにどう付けますか?

キピとマモ

――ギザギザの絵に「キピ」、丸々している絵に「モマ」と名付けます。

この質問を4歳くらいの子に言ってもそういう風に名づけるんですよ。しかも、日本に限らず外国の子供もみんなそう言うんです。この図のシルエットを見て判断しているんです。
キピ(KIPI)の母音であるイ(I)は細いイメージを持って、モマ(MOMA)のオ(O)とア(A)では大きい印象を受けるんです。

――しかも、モマは柔らかいようなイメージもあります。

そうなんです。母音だけでなく子音にもイメージがあって、Kは口の奥で作る破裂音なので、硬い感じがあるのに対し、Mは鼻音なので柔らかい感じがします。この感性は人間本来が持っている万国共通の感性なんです。さらに同じ破裂音でも、「パン(PAN)と叩いた」と「カン(KAN)と叩いた」のペアから分かるようにKは金属みたいな硬い物を叩いているようなイメージし、一方Pは張り詰めたものが破裂するようなイメージが湧きますよね。一つひとつの子音がある程度の意味を持っている。それがオノマトペなんです。

ASMRの摩擦音は胎児が羊水の中で聞く音と似ている

――オノマトペって深くて面白いですね。一方でノイズミュージックがあったりしますが、心地いい音はあるんですか?

先ほどお伝えした通り、ノイズとは一般的には不快感をもたらす音なんですね。P、T、Kの破裂音は1歳くらいで覚えるのに比べて、「ス」や「ズ」といったSやZの音は3歳くらいになってからようやく発音できるようになると言われています。そういう意味で言うと赤ちゃんにとって難しい音になるんです。

――では、赤ちゃんに聞かせると泣いてしまうんですか?

そうかもしれません。でもそうじゃない場合もあるんです。この耳かきのASMR動画を見たとき、レジ袋を擦った摩擦音を聴かせると赤ちゃんが泣き止むことを思い出しました。あれは赤ちゃんが羊水の中で聞いた音に似ていると言われてるんですが、音声学から言うと意外なんです。赤ちゃんは大人が思う快適な音ではない摩擦音に慣れていたということ。誰しもが体験していた母体での記憶が安心感や心地良さを与えているのかもしれないですね。

――こういう音があれば、もっと気持ちいいんじゃないかというものがありますか?

ポトポト(POTOPOTO)といった雨音なんかはいいんじゃないですかね。摩擦音より破裂音の方が心地いいんじゃないかと思います。

――確かに雨の音を聴いていると、心が落ち着いたりします。

そうですよね。少し寂しい印象も受けますが、落ち着きもありますよね。絵本にもたくさんあるんです。雨が降ってきて屋根から、ポトポトポト……、ポトポトポト……と描写されていて。ASMRの世界に破裂音が出てきても面白いかなと思いますね。

――なるほど、破裂音というとこちらはいかがですか?

摩擦音に近い破裂音ですね。オノマトペで言うと、カチカチ(KATIKATI)かカサカサ(KASAKASA)といった感じでしょうか。それでいて連続的だから気持ちいいんだと思います。

日本人はオノマトペ使いが上手?

――何気なく使っているオノマトペなんですが、かなり作り込まれているんですね。

そうなんです。私たちは共通の感覚を持っていますから、新しいオノマトペが生まれてもしっくり来るじゃないですか。

――オノマトペは未だに新しく作られてるんですか?

新しい言葉もどんどん増えていますよ。オノマトペはオノマトペ辞典に載っているだけで4500語くらいはありますが、今でも増え続けています。最近でいうとモフモフなんかがその一つですね。

ASMR動画の快楽は、胎児が羊水で聞く音に近いから?音声学の権威に聞く、オノマトペの面白さ-画像-03

――確かにそうですね。数年前にはありませんでした!

あれは素晴らしいオノマトペですよね。フワフワと似ている意味なんだけど、温かみだったり動物的な可愛らしさがありますよね。それと日本のオノマトペの面白いところはカンカンやドンドンといった物を表す音(擬音語、擬声語)から、名詞や動詞など普通の単語の中にどんどん入ってきているというところです。

――名詞の中にオノマトペ、と言いますと?

ピカチュウやガチャポン、ガラガラなど、オノマトペ由来の言葉がたくさんあります。このような言葉が日常的にたくさん使われていて、どんどん増えてきているのが日本語の特徴であり、豊かさなんです。オノマトペを使うと言葉が生き生きしてきて、親しみやすくなります。今回話題になったASMRの音も、本来は不快なはずの摩擦音を無意識のうちに繰り返しの音に変換して心地良く感じているのかもしれないですね。

――本日はありがとうございました。

  • 窪薗晴夫さん
  • PROFILE

    窪薗晴夫

    音声学と音韻論を専門に研究する国立国語研究所教授。2017年には編著書を務めた『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』(岩波書店・岩波科学ライブラリー)を発刊。

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